なぜ1万円で買えるハードディスクをデータ復旧するのに、5万も10万もかかるのか?

なぜ1万円で買えるハードディスクをデータ復旧するのに、5万も10万もかかるのか?

毎日、電話やメールで「データを復旧するのにいくらかかりますか?」というお問い合わせをいただきます。症状をお聞きし、考えられる故障内容から概算の復旧費用をお伝えすると、お客様の反応に一定のパターンが見られます。

「やっぱりそれくらいかかりますか・・・」という反応が4割。
「エッ!そんなに高いんですか!」と驚かれることが3割。
「割と安めですね」という反応が2割ほどといったところでしょうか。

「やっぱり」のお客様は、既に別の復旧会社で見積を取られているか、十分なリサーチをされている方で、
「安めですね」のお客様は、情報システム関係のお仕事に携わっているか、以前にデータ復旧サービスを使ったことがある方です。
「驚かれる」お客様はデータ復旧会社にコンタクトするのが初めての方が多いようです。

「なんで、たかだか1万円で買ったハードディスクを復旧するのに5万も10万もかかるんだっ!」と、お叱りをいただくことも少なくありません(昔はヘコみましたが)。

今やハードディスクは、家電量販店の店頭で1万円程度のプライスカードが下げられ、山積みで売られています。
30年以上も前になりますが、私が高校生の頃に初めて買った(正確には買ってもらったのですが)外付けSCSIハードディスクはたった120メガバイトで8万円近くしたものでした。
今や1TB(1テラバイト=1,000ギガバイト=1,000,000メガバイト)でも1万円でお釣りがくる値段になるとは驚きです。

さて、その1万円程度のハードディスクが壊れ、保存されているデータを復旧する場合、当社では単体のハードディスク(RAIDを組んでいないもの)は「ドライブ容量」(ハードディスクの最大保存容量)に応じた価格を設定しており、例えば1TB(1,000GB)のドライブ容量で、症状が軽い場合、おおよそ5万円前後の料金となり、基板やファーム障害等の中程度のものは約10万円前後の料金となります。

確かに1万円程度のものを直すのに5万円も10万もかかるなんて、どうしてそんな値段になるんだよ!
という気持ちになるのはもっともですが、データ復旧の料金はハードディスクの値段と比較してもあまり意味がありません。

たとえば、100円ショップで買ったアルバムが災害の被害に遭って、貼ってあった大事な写真がぐちゃぐちゃになってしまったとき、100円払って新しいアルバムを買ってきても、ぐちゃぐちゃの写真がキレイになる訳ではなく問題は解決しません。アルバムの値段と写真の修復作業にかかる費用は無関係だからです。

同様にデータ復旧サービスも、ハードディスクという「容器」から、データという「中身」を取り出すサービスです。
「容器」であるハードディスクの値段とデータの復旧作業にかかる費用は関係がありませんので比較対象とはならないのですが、
どうしても購入した価格がフックとなり、復旧費用が高額に感じる方が多いように思います。

これを踏まえたところで、データ復旧にかかる費用がなぜ5万、10万になるのか考えてみたいと思います。
当社ではデータ復旧の料金を、時間単位の「技術料」と、何時間かかるかの「工数」によりはじき出しています。
データ復旧は、中にどのようなデータが入っていようと一台一台手作業で復旧するため、一人のエンジニアは一台のハードディスクの復旧作業だけにかかり切りで作業を行います。
難しい案件は、経験を積んだ主任エンジニアが担当し、急ぎの復旧は複数のエンジニアが同時進行で作業をしたり、夜間や法定労働時間外も連続して復旧作業に取り組みます。

つまり、データ復旧の料金とは「ハードディスクの値段がいくら」、「購入価格がいくら」、「入っているデータの価値がいくら」(データの内容を盗み見て値段を決める業者もいるようですが・・)は関係なく、エンジニアを占有して作業を行わせる「技術料」という価格構造であることがわかります。

しかし、これだけではまだ説明として不十分です。肝心の「技術料」が妥当か否かという点です。
この「技術料」を決める要素を知らなければ、提示された復旧価格が適正なのか、法外なのかの判断もつきません。

データ復旧サービスの評価は「非常事態に助かった!」と喜ばれる一方で、残念なことに「足許を見て、法外な金額をぼったくる」と誤解されてしまうことも少なくありません
データ復旧が一部で残念な評価をされてしまっているのは、業界全体がノウハウの流出を怖れるあまり、過剰なほど秘密主義で、価格の要素をきちんとお客様に説明してこなかったのが大きな要因であると感じています。(本当に不当な請求をする業者の存在については別の機会にお話しすることにします)そうした反省も踏まえ、今回「技術料」の主な内訳について踏み込んで考えてみたいと思います。

1.人件費

エンジニアも生活者です。お給料をもらわなけれ食べていけません。
人件費相当の金額はIT技術者の平均年収から、一日の概算額を割り出すことができます。
「転職サービスDUDA」がまとめた「平均年収ランキング2022」によると、IT技術者の平均年収は「年収442万円」というデータを見つけることができます。

年に二回、それぞれ1ヶ月分のボーナスが支給されるとし、一年12ヶ月+賞与2ヶ月の計14ヶ月分で割ると、一ヶ月あたりの平均賃金は31.5万円の計算となります。
さらに、週休2日として一ヶ月間の労働日20日で割ると、日給相当額は「約1.5万円」です。これは受け取る給料ですので、社会保険料などの経費や利益は含まれていません。
一般的に支払われる給料の2~3倍の金額を稼がないと会社として存続することができません。仮に給料の2.5倍として、1日最低でも3.75万円売り上げなければ会社は成り立たない計算となります
丸2日の作業では単純計算で7.5万円です。 データ復旧はどうしても手作業にかかる部分が多くなり、技術料に占める人件費の割合も高くなります。

2.トレーニング・技術研究費

もはや市販のデータ復旧ソフトだけで「データ復旧やってます」というカンバンを掲げることはできなくなっています。
データ復旧ソフトはパソコンの取り扱いがある電気店のソフトコーナーでごく普通に売られていますし、ダウンロードサイトを覗けばフリーソフトが何種類も見つかります。軽い障害ならプロの手に委ねる必要はなく、お客様自身で復旧作業が完結します。データ復旧会社に依頼されるのは、こうした市販データ復旧ソフトで対応できない重い状態のものばかりです。

では、プロのデータ復旧業者はどうやって復旧をしているのかと言えば、独自に研究して復旧技術を開発する道と、国内外のデータ復旧技術の開発会社から「プロ用」の復旧技術と設備を買っています。当社では2005年に復旧技術と設備を輸入して、重度の物理障害にも対応できるようになりました。

しかし、こうしたプロ用の復旧技術や設備は安くありません。なぜなら、ハードディスクメーカーは構造や復旧方法を外部に一切公開していないからです。
ハードディスクメーカーは莫大な開発費をかけて新製品を開発しており、過酷な競争にもさらされています。競合相手に技術をさらすような真似をすることはありません。メーカーが公開していない以上、データ復旧会社や復旧技術開発会社は復旧ノウハウを独自に研究します。復旧技術や設備に数十万円~数百万円の値段がついているのは、このような研究開発に手間暇がかかるからです。また、プロ向けの機材は買っただけではまず使いこなせませんので費用と時間をかけてトレーニングをする必要が出てきます。

さらに、ハードディスクは年間何十種類もの新製品が市場に投入されています。
新製品に対応するためには常に復旧技術の開発をすすめておかなければなりません。

一方、新機種の復旧技術を、長い時間とコストをかけて編み出したにもかかわらず、「故障率が低い」等もっともな理由(壊れない方がいいのですが)で先行投資を回収できないことも多々あります。「技術料」にはこうした技術開発費に当たる経費が加算されています。なお、データ復旧会社によっては、新たな復旧技術の研究や機材が必要となる難しい障害に対応しない道を選ぶことで、価格を安くしている場合もあります。

3.部材費

ハードディスクのデータ復旧事業をまともに営むには、少なくとも1,000~2000台程度の「ドナー」となるハードディスクをストックしておくことが必要といわれています。
故障が多発し出番が多い機種よりも、全然お呼びがかからず、キャビネットの肥やしとなるモデルが多数を占めます。
ドナー在庫を持たず、発注ベースで調達することも可能ですが、部品の調達だけで数日間を費やし、復旧までの「スピード」に応えることができなくなるのでサービスレベルは落ちます。
なお業務用のサーバーで使われている「SAS」や「SCSI」の機種は、ドライブの価格が一般的な「SATA」と比べて大幅に高いため、復旧費用も高くなりがちです。

4.広告費

データ復旧のお客様は、業種特性として一回限りの「一見さん」がほとんどです
一般的な商取引は常連さんである「固定客」がつくものですが、データ復旧はそう何度も利用するものではありません。
データを失う手痛い思いをすれば、以後きっちりバックアップを取るため、リピートが望めないのです。

つまり、データ復旧は絶えず新しい顧客を探し続けなけれならないフロービジネスであり、「集客コスト」が非常に高い業種と言えます。
集客の手段として、サーチエンジンの「クリック広告」が主流です。しかし、YahooやGoogleの検索エンジンに上位に表示させるには、なんと一万円近い入札金額をつけないと表示されません。
一部に強引な営業をする業者があるのは、1クリック数千円の広告費を払っている以上、見込み客は逃せないという事情があるからです。
もちろんこのような広告費も最終的にお客様が支払う復旧料金に転嫁されていることは言うまでもありません。

5.管理費

データ復旧は外部に情報が漏れてはならない業務ですから、セキュリティにかかる費用も嵩みがちです。
安全性を客観的に証明するためにISOやPマークを取得すれば、毎年必ず監査を受けなければなりません。
個人のお客様も昨今の情報流出事件を目の当たりにしているせいか、プライバシーには大変敏感で業者選択の眼は一層厳しくなっています。
そのほかにも事務所やラボラトリの家賃や電話やインターネット等の通信費など、会社を維持していく費用もこちらに含まれます。

こうした要素が絡み合って、データ復旧料金が算出されています。
しかし、これはあくまでデータ復旧会社の理屈であって、積み上がったコストを100%お客様に負担していただけるほど世間は甘くありません。
当然同業者との間に「市場原理」が働き、各社それぞれお客様に選んでいただくため、知恵やコストを絞り様々な工夫をして市場の求める適正価格に落ち着きます。
参考までに当社の場合、20年以上営業していますので、一度ご利用いただいたお客様からのご紹介が多く、WEB自社内で制作していますので広告費が少なく、また小規模でこぢんまりと営業しているので人件費、間接費が少なく済んでいます。

 

この項のまとめ

  1. データ復旧の料金はハードディスクの金額と比較することはできない。
  2. データ復旧は手作業によるところが大きい。よって、人件費の割合が高い。
  3. データ復旧はメーカーが構造を公開しておらず、ブラックボックスであり復旧ノウハウを編み出す研究費がかかる。
  4. データ復旧は特性上、一回限りの依頼であるため新規顧客獲得コストが高い。
  5. データ復旧は情報セキュリティにかかる費用が高い
この記事を書いた人

宮澤 謹徳 オーインクメディアサービス株式会社代表取締役
大学在学中に同期らと当社を設立。データ復旧は高校時代にフロッピーディスクの復旧を行った頃から数えると30年以上のキャリアがある。テクニカルライターとしても活動し、単行本、ムック、雑誌など多数に寄稿。情報処理安全確保支援士の国家資格を持つ。秋葉原在住。

 


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